【速報・徹底解説】日本人の食事摂取基準(2025年版)の10個の改定ポイント

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もう時期、日本人の食事摂取基準(2025 年版)が出版されることでしょう(この記事は2024年8月22日に公開され、9月3日に追記・完成しました)。

食事摂取基準を活用する私たちの最大の関心事は、どこかどのように変わったのか?ですよね。

でも、本当は、変わった数値をおっかけるのでなく、なぜその数値が変わったのか、どのように変わったのか、などの理論背景を知ることのほうが大切なのです。

でも、食事摂取基準に書かれている内容は、専門的でなかなか読み解くのに苦労しますよね。

そこで、この記事では、食事摂取基準(2025 年版)の出版に先駆けて最低限おさえておきたい改定のポイントをお伝えします。

そして、その理論背景についても、文字数の制限などの限界もありますが、私の理解の範囲内で解説したいと思います。

この記事の情報源

「えっ?もう食事摂取基準(2025 年版)は出版されたの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

この記事を書いている2024年8月22日の時点では、まだ出版されていません。

でも、厚生労働省のHPにおいて、食事摂取基準(2025年版)の策定検討会の全5回の議事録および資料が広く公開されています。

この記事は、私が策定検討会の議事録と資料を読みこみまして、98%くらい仕上がっている食事摂取基準(2025年版)を、いち早く皆様に情報提供をしようとしたものです。

ただ、食事摂取基準の情報量は多く、変更点のすべてを記載しきれません。

そこで、優先度が高いのではないかと考えたものに絞って紹介いたします。

プロフィール

なまえ:アラフィフ管理栄養士のアラフィン

職 歴:管理栄養士として病院で調理全般 → 病院で献立全般 → 病院で栄養管理全般 → 大学で研究・教育 → 現在、大学で研究・教育+副業(起業の練習)→2030年に起業を本格始動(未来)です。

学 位:博士

食事摂取基準に関するメッセージ:

昔、私が病院に勤めていたころ、食事摂取基準は健康な人たちの基準だから、臨床栄養の世界には関係ないと思っていました。

でも、これは大きな間違いでした。

いまは、食事摂取基準は栄養のガイドラインなので、栄養管理を行うすべての人が活用すべきと考えています。

私は、食事摂取基準(2020年版)から、本格的に読み込むようになりました。

すると、食事摂取基準のスゴさがわかってきましたよ!

はじめに

食事摂取基準は、健康増進法という法律の中に位置づけられています。

そして、食事摂取基準は、栄養政策の推進や、事業所給食、医療・介護施設等における栄養・食事管理、栄養指導において、管理栄養士や医師等の医療従事者が用いるものとされています。

食事摂取基準は、健康な人々の栄養管理のみならず、医療・介護施設等における栄養・食事管理、栄養指導といった臨床栄養にも用いられます

食事摂取基準は、2020年版から臨床栄養分野に大きく踏み込んできました。

だから、栄養管理の対象者が健康な人であろうと、傷病者であろうと、子供であっても、高齢者であっても、食事・栄養管理に携わる専門職は、食事摂取基準をしっかり理解したうえで活用する必要がありますね!

食事摂取基準における3つの目的からなる 5つの栄養の指標

食事摂取基準を読み込みたいけれど読めない方は、以下の5つの用語を整理するところからはじめましょう。

かみ砕いて書いてみましたので、理解につなげてみてくださいね。

1)摂取不足の回避を目的とする指標(①推定平均必要量、②推奨量、③目安量) 

 ①推定平均必要量:半数の者が必要量を満たす量。
 ②推奨量:ほとんどの者が充足している量(推定平均必要量から計算されている)
 ③目安量:おそらく充足していると確認できる量(科学的根拠となる論文がなく推定平均必要量と推奨量を設定できない時の代替え指標)。

2)過剰摂取による健康障害の回避を目的とする指標(④耐容上限量)

 過去に誰一人として健康障害になっていない量

3)生活習慣病の発症予防を目的とする指標(⑤目標量)

 少々ルーズでもよいので長期にわたり配慮する量​

食事摂取基準(2025年版):総論における2つの改定ポイントと理論背景

(1)栄養素間の指標の定義の統一に向けた検討と理論背景

今回の策定検討会の中で、栄養素間の指標の定義の統一、測定方法や数値算出根拠の統一にむけて検討されていました。

推定平均必要量を下回った場合の問題の大きさの程度が栄養素によって違うのです。

ちょっと難しいので、もう少しかみ砕きますね。

推定平均必要量(集団の50%の人が不足しない量)の基準が、バラバラでわかりにくいのです。

たとえば、食事摂取基準(2020年版&2025年版)のビタミンAの推定平均必要量というのは、それを下回ると免疫機能低下や夜盲症の症状が出る可能性があるという、かなりヤバイ値なのです。

つまり、この推定平均必要量の値は、ビタミンA欠乏症を回避するための基準ということですね。

一方、食事摂取基準(2020年版)のビタミンB1の推定平均必要量は、「集団の50%の人の体内量が維持される摂取量」とされていました。

欠乏というより不足のリスクを示した値だったのです。

今回、食事摂取基準(2025年版)のビタミンB1の推定平均必要量は、脚気が出る可能性がありますよというヤバイ値を示してくれています。

つまり、不足でなく欠乏のリスクですね。

ちなみに、ビタミンB1の基準値の改定には、これまでの尿検査の論文データから、血液検査(赤血球トランスケトラーゼ活性)の論文に方針を転換して根拠となる値が設定されています。

このように、なるべく混乱が起きにくいよう検討が重ねられたようですが、すべてが統一の定義とはなりませんでした。

たとえば、ビタミンB2も血液検査の指標で、新しい基準の設定ができないか検討されましたが、その根拠論文が少なく、かつ結果にバラツキがありました。

だから、食事摂取基準(2020年版)の尿検査の結果を用いた不足の回避を目指す値のまま、据え置きになりました。

現場で活用する側からすると、全部の栄養素を欠乏または不足のどちらかに統一してほしいと思いますよね。

でも、研究論文・根拠がないと、それを設定できないのです。

今回、全部を統一するまでには至っていないけれど、なるべく善処しましたよということですね。

活用する我々は、各栄養素の推定平均必要量が、ヤバい欠乏症を回避する値なのか、欠乏までには至らない不足状態を回避する値なのかを知っておきましょうということですね。

詳細は以下の表をご確認ください。

赤字下線の部分が変更箇所です。

この栄養素の指標の整理整頓は、事業所等給食や災害時の避難所での食事・栄養管理等において、活用上の混乱を減らすことに役立つことが期待されます。

1 一部の年齢区分についてだけ設定した場合も含む。
2 フレイル予防を図る上での留意事項を表の脚注として記載。
3 総エネルギー摂取量に占めるべき割合(%エネルギー)。
4 脂質異常症の重症化予防を目的としたコレステロールの量と、トランス脂肪酸の摂取に関する参考情報を表の脚注として記載。
5 脂質異常症の重症化予防を目的とした量を飽和脂肪酸の表の脚注に記載。
6 高血圧及び慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的とした量を表の脚注として記載。
7 妊婦への付加量は目安量とした。
8通常の食品以外の食品からの摂取について定めた。
a 集団内の半数の者に不足又は欠乏の症状が現れ得る摂取量をもって推定平均必要量とした栄養素。
b 集団内の半数の者で体内量が維持される摂取量をもって推定平均必要量とした栄養素。
c 集団内の半数の者で体内量が飽和している摂取量をもって推定平均必要量とした栄養素

(2)日本食品標準成分表(八訂)との整合性、調理損耗に関する記述追加と理論背景

日本人の食事摂取基準(2025年版)の基盤になるのは、日本食品標準成分表(七訂)で計算された過去の研究論文です。

一方、食事摂取基準を活用する現場では、八訂で物事が動いています。

七訂ベースで作成された食事摂取基準(2025年版)を用いて、八訂で作成された献立の給食を現場で動かすという難しいことをする必要があるということです。

日本食品標準成分表の七訂と八訂の間には、以下のように数値に大きな隔たりがあります;

七訂→八訂:エネルギー5%減、たんぱく質 15%減、脂質7%減、炭水化物7%減、食物繊維33%増

このことを念頭に食事摂取基準を活用する必要があります。

食事摂取基準の中で、七訂と八訂の差を考慮した値を示してくれると、活用する我々にとってはラクですよね。

でも、実務の様々なシチュエーションごとに、八訂と七訂の数値の誤差などを一律に示すことは困難なのです。

だから、八訂ベースの食品成分表を利用する際には、七訂ベースで策定されている食事摂取基準との誤差の存在を十分に理解しておく必要があるのです。

ところで、食事摂取基準は調理後のエネルギー・栄養素の量に関する基準です。

でも、一般的に献立を立てるときは、材料ベースで、必ずしも調理損耗が考慮されていませんよね。

ビタミン C や葉酸などは調理後の残存率が低いことがしられています。

とはいっても、調理で各食品の各栄養素がどのていど減少するのかという研究はあまり進んでいないようでデータが少ないそうです。

実際に、献立のもととなる食品標準成分表において、調理による成分値の変動を一部の食品だけで考慮されるにとどまっていますよね。

データがないから食事摂取基準では、詳しく書くことができません。

しかし、食事摂取基準は、給与基準でなく摂取基準なので、調理損耗のことも考えて活用しましょうというスタンスです。

これも、現場レベルで考えると頭が痛いですよね。

以下のような感じでしょうか。

たとえば、75歳以上女性のビタミンCの推奨量は50 mg/日です。

この値は、普通に献立を立てると余裕でクリアできますよね。

でも、野菜由来のビタミンCは、調理で70%くらい減ることを頭に入れておくことが大切ですよということです。

そんな時、調理損耗が生じない生の果物を毎日の献立に入れておけば、推奨量は超えるだろうと予測できるわけです。

たとえば、うんしゅうみかん1個(100 g)のビタミンC含有量(八訂)は32 mg/日ですから。

食事摂取基準(2025年版)の各論【エネルギー産生栄養素】:3つの改定ポイントと理論背景

(1)エネルギーの指標であるBMIと理論背景

1)BMIの基準値に変更はないが理論背景が変化している

エネルギーの指標であるBMIの目標とする範囲には、変更ありません。

変更なしで、新たに覚える必要性がなくて、よかった、よかった、と思ってはいけませんネ。

変わらなかった背景に、新しい試みと確認作業を行っても、やっぱり変わらなかったという事実を理解したほうがよいわけです。

本題に入りましょう。

食事摂取基準(2020年版)では、年齢別の目標BMIの下限は死亡率、上限は主な生活習慣病のリスクなどを考えて設定されていました。

一方、2025年版ではこれらに加えて、フレイル・身体機能障害が考慮されました。

どういうことかというと、死亡率はBMIが低すぎても高すぎても上昇しますよね(高齢者では高BMIの死亡率は変わらないという我が国の報告がありますが)。

でも、身体機能障害は、BMIが高くなるほど増えるのです(Jiang M, Clin Nutr 2019; 38: 1511-23.)。

強調したいのは、目標とするBMIの基準は、死亡率、生活習慣病有病率およびフレイル・身体機能障害が起こりにくい範囲で、年齢別に設定しているということです。

2)フレイルは、やせだけでなく肥満もリスクになる

フレイルというと、低栄養、やせとの関連を疑います。

でも、発症率はU字カーブなのです(Hozawa A, s. J Epidemiol doi:10.2188/jea.JE20180124)。

つまり、BMIが低い人と高い人で多く発症しているということですね。

大事なことなので、体重管理を行うことが重要だよ、ということが新たに追記されています。

(2)たんぱく質とフレイル、活用上の注意点

1)生活習慣病及びフレイルとの関連についての記載の変化

2020年版では、フレイル予防のためにどの程度のたんぱく質をとればよいかは分からないけれども、多くとったほうがよさそうであるという感じの書かれ方でした。

2025年版では、2020年以降に発表された研究結果を含めて検討すると、結果にばらつきがあるという書き方になっています。

フレイル予防のために、どの程度のたんぱく質をとればよいかは、いまだ分かりません。

これは、たんぱく質摂取量の評価方法やフレイルの判定方法が、そもそも研究間で異なるためです。

背景には、集団のたんぱく質摂取量を調べる方法が難しいことがあげられます。

また、フレイルの定義も、サルコペニアほど国際的に固まっていないことも理由にあげられると思います。

ただ、高齢者では推奨量の値よりも多めに摂取する方が(1.2g/kg 体重/日以上)、フレイル及びサルコペニア発症を予防できる可能性があると記載されています。

2020年版では、1.0g/kg 体重/日以上と書かれていましたので、このあたりも少し変わっていますね。


2)たんぱく質の活用上の注意点

思い出していただきたいことは、上述の食品成分表(七訂→八訂)によって、たんぱく質の含有量は平均で15%減になっています。

これは、策定員会の議事録の中の一文を引用すると、「たんぱく質の構成要素のうち、どの部分をたんぱく質と呼ぶかが変わったこと」が要因です。

ここからは私の解釈になるのですが・・・

たとえば75歳以上のたんぱく質の推奨量は50 g/日です。

これは七訂ベースで調べられた研究から作られた基準です。

七訂と八訂の平均15%の誤差を考慮すると、七訂の50 g/日は、八訂で42.5 gです。

食事摂取基準(2015年晩)七訂ベースの推奨量:50 g/日 ≒ 八訂ベース:42.5 g

だから、八訂ベースで42.5 g/日以上であれば、おおむね不足することはないだろうと思われます。

さらに、目標量であるエネルギー比15~20%の範囲に入るよう調整することで、高齢者におけるフレイル予防のためにもよいだろうと考えるのではないかと、私は思います。

(3)炭水化物の中の食物繊維の活用上の注意点、糖類とアルコールの行方

1)糖類の行方

炭水化物の中でも、糖類(単糖類、二糖類)の健康影響が世界的に大きくなってきています。

実際に、ほとんどの諸外国およびWHOは、糖類の基準を出しています。

でも、その基準は、added sugar(食品の調理加工中に添加された糖類やシロップ)またはfree sugar (added sugarに果汁を加えたもの)なのです。

ここで、おおきな問題が1つあります。

食事摂取基準と連携する日本食品標準成分表には、単糖や二糖類等の成分値は一部の食品で収載されているものの途上であるほか、added sugarやfree sugarの値は示されていません。

だから、海外の研究成果を引用してadded sugarやfree sugarの基準をつくっても、日本人がその基準と比べてどれだけ摂取しているのかわからないのです。

今後、日本人の糖類(単糖類、二糖類)摂取量に関する健康影響の研究成果をつくることが重要になります。

というわけで、前回の2020年版に引き続き、糖類の基準の設定は見送りになったことが記載されています。

2)食物繊維の目標量の変化と理論背景を理解した活用上の注意点

食物繊維の目標量は、性・年齢によって1 g程度増減したところがあります。

その数値の変化自体はさほど重要ではありません。

大切なのは、なぜ変わったかです。

これは、食物繊維摂取量が少なくとも25~29 g/日で、様々な生活習慣病のリスクを低下させるというメタアナリシスの結果を重要視したことがきっかけと、私は解釈しました(Reynolds A, et al, Lancet. 2019; 393: 434-445.)。

食物繊維摂取量と生活習慣病リスクとの間に明らかな閾値は存在しないようで、摂ればとるほど良さそうだということなのです。

このことより、少なくとも1日当たり25gの食物繊維を摂取すべきだよね、となったわけです。

でも、日本人成人(18 歳以上)における食物繊維摂取量の中央値は、13.3 g/日(平成 30・令和元年国民健康・栄養調査)と果てしなく少ないわけです。

だから、まずは理想と現実の中間地点を目標にしましょう、としているわけですね。

次に活用上の注意点です。

思い出していただきたいことは、上述の食品成分表(七訂→八訂)によって、食物繊維の含有量は平均で33%増です。

これは、策定員会の議事録の中の一文を引用すると、「日本食品標準成分表の食物繊維の測定方法が変わった。変わったというより、食物繊維の定義が広がった」ことが要因です。

ここからは私の解釈ですが・・・

たとえば、75歳女性の目標量は17 g/日です。

これは七訂ベースで調べられた研究から作られた基準です。

七訂と八訂の平均33%の誤差を考慮すると、七訂の17 g/日は、八訂で22.6 gです。

食事摂取基準(2015年晩)七訂ベースの推奨量:17 g/日 ≒ 八訂ベース:22.6 g

だから、八訂ベースで17 g/日以上を食べていても、八訂ベースの給食や食事調査結果では不足していますよ、生活習慣病予防の観点からは不十分ですよ、ということですね。

もう少し、具体的な話をするとですね。

七訂→八訂の食物繊維総量/100 gは、

精白米:0.3g→1.5g と増えています。

玄米:1.4g→1.4g と変化なしです。

これをそのまま読んでしまうと、精白米は玄米よりも食物繊維が多いという摩訶不思議なことが起こります。

でも、そんなはずはありません。

これは、精白米が玄米に先行して、新しい測定法(AOAC.2011.25法)で測定された結果が収載されているのです。

玄米は、七訂で用いられたプロスキー変法のままです。

今後、玄米も新しい測定法で、低分子量水溶性食物繊維と難消化性でん粉の測定値が明らかになりますので、その際には、現状よりも高い値で収載されるはずです。

このように、日本食品標準成分表は進化し続けていますが、途上なのです。

これは手作業で1つずつやっているから、タイムラグは仕方ないということになるわけですね。

でも、この事実を知っているのと知っていないのとでは、大きな違いがでますよね。

3)アルコールの行方

2025年版では、アルコールが食事摂取基準の炭水化物のコーナーから消えました。

アルコールは、化学的にも栄養学的にも炭水化物とは異なります、ということがその理由です。

だから、炭水化物からアルコールの項は消えました。

その代わり、エネルギーは産生するので、エネルギー産生栄養素バランスの項に、記事が縮小されて移動となりました。

※ビタミン、ミネラルは、現在準備中です。

食事摂取基準(2025年版)の各論【ビタミン、ミネラル】:4つの改定ポイントと理論背景

(1)ビタミンD:日照による体内産生を考慮

ビタミンDは、食物だけでなく、紫外線暴露によって皮膚でも合成される変わった栄養素です。

だから、摂取量の値を決めること自体がとても難しく、限界もあります。

今回のビタミンDの目安量の値自体は、結果だけみるとわずかな変動です。

でも、ビタミンDの研究はかなり進んだそうで、この値を設定するためのプロセスは、新しいエビデンスを取り入れたり、日照によるビタミンD産生量を考慮したりと膨大だったようです。

だから、本文の内容自体もかなり書き変わっています。

まず、ビタミン Dは、欠乏の回避を目的とした目安量が策定されています。

その根拠は、くる病や骨軟化症のリスクが最も低くなるという血中 25-ヒドロキシビタミン D 濃度が 20 ng/mL 以上で設定されました。

では、ビタミンDが欠乏しないためには、日照で産生されるビタミンDを差し引いて、食品からどの程度の摂取量が必要かということが検討されたわけですね。

今回、新たに、日照を考慮したビタミンDの摂取量(10 µg/日)を設定しているスカンジナビア諸国の食事摂取基準 (NNR2023) を参考にされました。

結論的に、ビタミンDは食品から10 µg/日とっていれば欠乏しません。

でも、日本人のビタミンDの摂取量は、はるかに少なく、それは高すぎる目標になるのです。

日本人はビタミンDが不足はしているけれども、欠乏症状が出るほど人が少ないのは、スカンジナビア諸国よりも緯度が低いので、日照から得られるビタミンDが多いことによるものでしょう。

食事摂取基準は実現可能性を考慮しなければいけませんので、NNR2023で薦められている10 µg/日と日本人の摂取量の中間値である9.0 µg/日を成人の目安量にしました。

なお、ビタミンDの摂取量は、骨折や心血管系疾患、二次性副甲状腺機能亢進症にも関係すると考えられていますが、生活習慣病の発症予防のための目標量や重症化予防の値は科学的根拠が不十分ということで設定されませんでした。

(2)ビタミンB1:バイオマーカー(血液)を使用した根拠作成

ビタミンB1は、総論の項でも記述した通り、基準を作成するための参考指標を、尿の実験から得られた研究から、赤血球トランスケトラーゼ活性で得られた研究に変えました。

これによって、推定平均必要量の定義が不足のリスク回避を示した値から、欠乏のリスク回避を示した値に変わりました。

そのため、2020年版よりも成人の推定平均必要量・推奨量が、それぞれ0.3~0.4 mgくらい減少しました。

値だけを追っていると、少なくなったから献立を立てる際にはラクになったと勘違いしてしまいます。

でも、今回の推定平均必要量は、不足のリスクでなく、欠乏のリスクを回避するための値であることを忘れてはいけません。

これを下回り続けるとヤバイという値ですね。

(3)ビタミンC:推定平均必要量の定義が変わったことの解釈

ビタミンCは、推定平均必要量の定義がかわりました。

2020年版の推定平均必要量は、「抗酸化による疾病発症予防が期待できる摂取量」と、なんだか目標量のような感じで、他の栄養素となんだか違うなあと思っていました。

今回の改訂では、総論の項でも記述したように、なるべく推定平均必要量の定義を統一するという観点で、「体内量が維持される摂取量」として見直されました。

定義自体が変わりましたので、値が大きく変わりました。

具体的に、数値は、推定平均必要量、推奨量が約50%減りました。

血漿アスコルビン酸濃度が 11 µmol/L 以下になると壊血病の症状が現れ、11~23 µmol/Lで低栄養状態、30 µmol/L 以上で不足を回避できるだろうとされています。

では、血中ビタミン Cレベルが30 µmol/L以上となる摂取量はというと、成人で33 mg/日だそうで、値を丸めて35 mg/日を推定平均必要量と設定しました。

あわせて、この値に掛け算をして、推奨量を50 mg/日と設定しました。 

では、本当に50 mgで大丈夫なのかということですよね。

実際に、2020年版までの成人の推定平均必要量は85 mgであり、「抗酸化による疾病発症予防が期待できる摂取量」だったわけです。

50 mgだと、心血管疾患などの生活習慣病のリスクが増えるのではと心配になりますよね。

ただ、現在のエビデンスで考えると、ビタミンCが生活習慣病予防に寄与するか否かは、研究結果が一致しないそうです。

つまり、ビタミンCを多く取った方がよいという研究と、そんなに多くとっても変わらないよという研究が同じくらい存在するということで、いまのところ結論づけられないそうです。

でも、多くとってはいけないという研究はありませんよね。抗酸化物質ですから、まあそこそこ多くとった方がよさそうな気もするわけです。

というわけで、壊血病などの欠乏リスクの回避を考えると50 mg/日でよいけれども、それは最低限度の健康を保証するという値ではないかなと、私は解釈しました。

食事摂取基準は体内に入る栄養素の量ですので、調理損耗が大きいビタミンCの基準が下がったことは、食事計画的にはラクになったと考えてよいかもしれません。

たとえば、75歳以上のビタミンCの推奨量は50 mg/日です。

この値は、普通に献立を立てると余裕でクリアできますよね。

でも、野菜由来のビタミンCは、調理で70%くらい減ることを頭に入れておくことが大切ですよということです。

そんな時、調理損耗が生じない生の果物や生野菜を毎日の献立に入れることは有用ですね。

うんしゅうみかん1個(100 g)のビタミンC含有量(八訂)は32 mg/日ですから。

(4)鉄:耐容上限量がなくなった

鉄は十二指腸から空腸上部で吸収されます。

鉄の吸収は非常に難しいです。

有名な事実として、鉄の吸収率は、食品によって、またはヘム鉄と非ヘム鉄で異なること、ビタミンCによって吸収は促進され、マンガンとは競合します。

さて、鉄の推定平均必要量および推奨量は、2020年版から0.5~1 mg/日程度減少しています。

値自体の変化は軽微ですが、中身はかなり変わりました。

たとえば、鉄沈着症を予防するための耐容上限量が撤廃されました。

これは、他国のガイドラインと同様の考え方だそうです。

実際に、貧血治療時に使う鉄剤の鉄含有量は100 mg以上ですので、貧血とはいえ耐容上限量との整合性が合わないなあと思っていました。

これは、鉄の吸収が体内蓄積量に応じて、肝臓からのヘプシジン、腸管のフェロポーチンの調節によるバイオフィードバックがかかることがわかっているからです。

つまり、体内に十分な鉄がある場合は吸収率が低下し、体内の鉄が不足していると吸収率が増加します。

だから、食事で鉄を摂取しても、一部の病気(遺伝病、肝炎など)を除いて、体内で過剰に蓄積することはないという理屈ですね。

ちなみに、体内鉄不足の指標は血清フェリチンで、60 µg/L 未満になると、鉄の吸収率が増加することが最近の研究で明らかになったそうです(Aggett PJ. Academic Press is an imprint of Elsevier, London, 2020: 375-92)。

特に、非ヘム鉄の吸収率が増加するそうですね。

こういう大切な事実が記載されているので、実際に記載内容を読むことはとても勉強になります。

とはいっても、長期にわたって鉄サプリメントの利用や食事からの過剰な鉄摂取が、臓器への鉄蓄積を介して、健康障害を起こす可能性は否定できませんので、推奨量を大きく超える鉄の摂取は、貧血の治療等を目的とした場合を除き、控えるべきでしょう。

鉄が難しい理由はまだあります。

女性の月経による喪失量に個人差があることです。

つまり、鉄をXXミリグラムを食べると、YYパーセントが吸収されるという計算はまったく成り立たないわけですね。

今回の改訂では、鉄の吸収率を一律15%から、EUの食事摂取基準を参考に、月経の有無別に、月経のある女性で18%、それ以外で16%と設定されました。

食事摂取基準(2025年版)の新たな章【骨粗しょう症】

今回の改訂では、2020年度版に配置されていた生活習慣病の発症予防や重症化予防(高血圧・ 脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病)に加えて、生活機能の維持・向上にも寄与できるための基準づくりが検討されました。

「生活機能の維持・向上にかかる疾患」の原案は、フレイル、骨粗鬆症、貧血でした。

種々検討されたうえで、すべての条件をみたした骨粗しょう症が追加され、エネルギー・栄養素摂取との関連について説明されています。

フレイルは、いまだエビデンスが不足しているので、独立させずに、引き続き高齢者の章で扱われています。

さて、骨粗鬆症は骨密度が低下するだけでは重大な支障は来たしません。

でも、ひと度骨折すると、心身に重大な障害を来し、骨折部位に寄っては死亡リスクも上昇します。

だから、 骨粗鬆症予防の最終目標は(脆弱性)骨折の予防なのだと記載されています。

なるほど、です。

そこで、中高者を対象に、脆弱性骨折リスクを低減する食事要因について述べられています。

骨粗鬆症の発症予防及び重症化(脆弱性骨折)予防との関連について、特に重要な栄養素はカルシウム、ビタミン D、たんぱく質で、これらが中心に記述されています。

要チェックですね。

以下、簡単に抜粋して紹介しますが、ぜひ原文をご覧ください。

1)カルシウムと骨粗しょう症

中高年者のカルシウム摂取は骨密度増加にわずかであるものの有効であることが複数のメタアナリシスで確認されているそうです。

その他の介入研究結果とあわせると、閉経と加齢に基づく骨密度低下を低減するためには、1000~1200mg/日のカルシウムの上乗せが必要だそうです。

この量は、骨粗しょう症の重症化予防にも有用である可能性が示唆されています。

食事からのカルシウム摂取が少ない日本人では効果が出やすいとも考えられています。

いずれにしても、乳製品等を活用してしっかりカルシウムを摂取することが、骨粗しょう症の予防につながることが強調されています。

2)ビタミンDと骨粗しょう症

ビタミンD単独では、骨粗しょう症予防に有意な効果は期待できないそうです。

やはり、カルシウムと併用する必要があるということですね。

ただ、成果を出そうと思うと、ビタミンDを17.5μg/日以上、カルシウムを1000mg/日以上を追加で摂取する必要があると書かれています。

これはちょっと難しいですね。

だから、ビタミンDに関しては、食事の改善だけでなく、適切な日光被爆が重要ですね。

3)たんぱく質と骨粗しょう症

まず、たんぱく質は骨の重要な構成要素であるという一文から始まっています。

骨というとカルシウムとリンだけかなと勘違いしてしまいそうですが、コラーゲンなどのたんぱく質も重要な構成要素であることを理解しておくことが大切ですね。

たんぱく質が不足すると骨形成を刺激する IGF1 が低下し、骨量の低下に結びつくそうです。

たんぱく質の摂取が骨粗しょう症の発症予防に関係があるという証拠はまだまだ少ないようです。

ただし、たんぱく質の高摂取群では低摂取群に比べて大腿骨近位部骨折のリスクが 10%程度低い可能性があるそうです。

たんぱく質は、高齢期などのフレイル予防だけでなく、骨折リスク低減のためにもしっかりとりたいですね。

4)エネルギーと骨粗しょう症

結論としては、低体重が骨折のリスクをあげるので適切な体格を維持することが重要と書かれています。

興味深いのは、BMI25以上の肥満者では、骨密度が高く、骨折リスクも下がる(変わらないという研究もある)という研究が目立つようです。

でも、BMI 25 以上の骨折リスクは、部位や性別(女性はリスク低下、男性は変化なし)によっても異なるそうですし、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脂質異常症などのリスクを上げるので、過体重・肥満は推奨できないと結ばれています。

5)ビタミンC、ビタミンKと骨粗しょう症

ビタミンCも骨に関連があるのですね。

ビタミンCは、骨芽細胞の分化を促進して骨形成を高め、その欠乏は破骨細胞を誘導して骨吸収を促進するそうです。

はじめて知りました。

それから、骨粗しょう症ガイドラインでは、ビタミンKが推されていましたが、食事摂取基準では証拠不十分という感じで記載されています。


まとめ

食事摂取基準の策定の裏側には、策定委員とそれを支えるワーキンググループ、厚生労働科学研究の研究班の方々が、大量の論文を集めて、読んで、検討して、まとめて、書き上げて、ディスカッションしてという大仕事があります。

策定委員会の議事録には、活用する我々にとにかく読んでほしいと書かれていました。

私も、この記事で何がどのように変わったのかをお伝えしようとしていますが、やはりこの情報だけでは不十分です。

皆さんの周りに、数字だけを眺めて満足している人がいたら、この記事を紹介いただければと思います。

だけを追うのはそろそろやめにしましょうとお声かけください。

食事摂取基準は、活用する私たち専門職が、そこに記載されている策定の基本的事項や策定の考え方、留意事項等を十分に理解したうえで用いることが大切なのですから。


【速報・徹底解説】日本人の食事摂取基準(2025年版)の10個の改定ポイント” に対して3件のコメントがあります。

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