【応用編】GLIM基準の使い方:実際の栄養管理5つのポイント

この記事ではアフィリエイトを採用しています。

下表は後ほど解説しますね。

こんにちは、nutrentepreneurを運営するアラフィフ管理栄養士のアラフィンです。

時代の流れから、GLIM基準について勉強することや、各施設で導入の準備をすすめることは重要です。

いや、病院の話でしょ?

なんて考えている方は、時代に乗り遅れてしまうかもしれません。

なぜならば、GLIM基準は、世界共通の低栄養診断基準だからです。

低栄養者がいる限り、そこには病院も福祉も在宅も、職域なんて関係ないのです。

たとえば、たとえばですね、、、糖尿病診断基準が変わったら、それにならいますよね?

世界共通の低栄養診断基準ができたのですから、自施設だけ別の診断基準で栄養管理をするということでなく、時代にあわせて栄養管理の仕組みも見直していかなくてはいけません。

でも、GLIM基準はどうにか導入できたとして、その後どうやって活用すればよいのか迷っていませんか?

そんなあなたへ。

今回は、 GLIM基準を導入した後、その結果をどのように用いるのか?どのように栄養管理の質を向上するのか?を記事にしてみました。

明日からの栄養管理のヒントになれば幸いです。

ぜひ、最後までご覧ください。

①GLIM基準を用いた栄養管理:目的を正しく認識する

現在の診療報酬上では、回復期リハビリテーション病棟入院料1を算定しているところのみ、GLIM基準による低栄養診断を行うことが要件化されています。

今後、かなり高い確率で、一般病棟や介護現場にも、GLIM基準を使用することが要件化または推奨となるでしょう。

ですから、GLIM基準を現在または未来の診療報酬の対策として導入できたとしたら、それは素晴らしい第一歩です

では、次の二歩目は、どこを目指すのでしょうか?

それは、ごくごくあたりまえのことですが、GLIM基準の本質的な目的は、診療報酬対策でなく、低栄養者の栄養管理のためですよね。

つまり、第二歩目は、GLIM基準を用いて、栄養管理の「質」を一段階あげることを念頭におくことといえるでしょう。

②GLIM基準を用いた栄養管理:自施設の栄養状況の分析

この章は、私がこの記事で最もお伝えしたいことを書きますね。

まず、この記事を読んでくださっている方にお尋ねいたします。

お勤めの病院、病棟あるいは施設の低栄養の割合はどの程度ですか?

・・・・

「私が勤めるA病院の低栄養の割合は60%(中等度低栄養40%、重度低栄養20%)」

「私が勤めるA施設の低栄養の割合は70%ですが、85歳以上に絞ると90%です」

・・・・

と、ラフな値でもよいので、回答出来たほうがよいと思いませんか?

なぜならば、どこに栄養管理の時間やマンパワーを重点的に割けばよいのかを客観的に知ることができるからです。

日本の大学病院が発表した有名な論文によると、9372名の入院患者をさかのぼって調べると、GLIM基準(スクリーニング法:MUSTとMNA-SF)によって、55.8%が低栄養と判定されています(栄養良好44.2%、中等度低栄養29.9%、高度低栄養25.9%)(Mori N, Clinical Nutrition, 2023)。

また、GLIM基準ができる前に、MNA(フルフォーム)による低栄養状態の頻度を調べた世界中の論文のメタアナリシスによると、低栄養の頻度は病院で67.6%、福祉施設で65.5%、長期の要介護施設で77.7%と報告されています​(Cereda E, Clin Nutr, 2016)。

これらをまとめると、少なく見積もっても半数以上は低栄養ということですね。

では、改めてお尋ねします。お勤めの病院、病棟あるいは施設の低栄養の割合はどの程度ですか?

これをしっかり調査して、世界の基準と比較し、自施設の栄養状況を知ることは大変重要だと思います。

このように学術的論文ベース、客観的な数値ベースで話ができると、栄養部門のスタッフはもちろん、他部門からも信頼を得ることもできるでしょう。

繰り返しになりますが、GLIM基準は世界共通の低栄養診断方法です。

その世界基準を用いて、自施設あるいは自身の担当病棟の対象者にどの程度の割合で低栄養が存在しているのかを把握することはとても大きな意味があります。

③GLIM基準を用いた栄養管理:対象者のデータ化

先の②の章のように、自施設の対象者の低栄養の割合を調べるためには、データ化が欠かせません。

では、データ化とは、どのようにすすめるとよいのでしょうか?

冒頭にもお示ししていましたが、誰もが使用できるエクセルで、以下のような感じで、すべての対象者をデータ化していくのはいかがでしょうか?

もちろん、入力にあてられる時間は、それぞれでしょうから、適宜項目を増減して、隙間時間に作業できるくらいのボリュームにするとよいでしょう。

下図は、栄養スクリーニングを2つ記載した例を示していますが、自施設で用いる1つにして運用してもよいでし
ょう。

④GLIM基準を用いた栄養管理:診断結果に基づく優先度の決定

栄養状態の判定結果で、栄養管理を行う順番と、かける時間の割合を(あたりまえですが)以下のように考えましょう。

・高度低栄養→今すぐ、そして最も多くの時間をかけて栄養ケアを進める。

・中等度低栄養→高度低栄養者の栄養ケアが終了次第、なるべく早く、可能な範囲で時間をかけて栄養ケアを進める。

・栄養良好→食事療法の対象となる疾患(糖尿病や高血圧など)があれば、栄養指導やミールラウンドでケアを行う。

救急医療のトリアージみたいな考えでしょうか。

言われればあたりまえのことのようにみえますが、実臨床の経験が少ない方は、意外にこれが十分にできていないことがあります。

⑤GLIM基準を用いた栄養管理:低栄養状態者の課題解決

低栄養ということが分かった後、それでいったい何をすればいいの?ってなりますよね。

低栄養になったということは、GLIM基準の、表現型基準(体重減少、低BMI、筋肉量減少)と病因基準(週単位の食事摂取量減少、消化吸収不良、炎症)のぞれぞれにおいて、1つ以上にチェックが入っているということですよね。

このチェックが入っている箇所が、当該対象者の栄養関連の課題なのです。

そして、その課題を解決する手段が、栄養ケアプランです。

あくまでも例ですが、たとえば以下のような感じです。

1)GLIM基準の表現型基準ー体重減少

短期的にエネルギー出納バランスが崩れているので、当該患者の体重減少が起こった原因を追求するとともに、エネルギー摂取量を評価し、これ以上の体重減少を防止するために食事摂取量を増加できる方法を考えます。

対象者に応じて、食事内容を見直したり、ONSを使ったり、一時的に経腸栄養を提案したりということですね。

とにかくエネルギーのアップです。

私であれば、ケースバイケースですが、PFCバランスやナトリウム制限なども、場合によって無視します(事前に医師の許可は得ます)。

もちろん、体重をモニタリングして、栄養ケアの方向性が正しいのかどうかを評価し、成果がでていなければプランを練り直しましょう。

2)GLIM基準の表現型基準ー低BMI

中長期的なエネルギー出納バランスの崩れを示しています。つまり、長い間、エネルギー摂取量が消費エネルギーを下回っている状態が続いているということです。

対応は、体重減少に同じですが、低BMIは長い年月をかけた変化ですので、改善にもそれなりに時間が必要になります。

3)GLIM基準の表現型基準ー筋肉量減少

高齢者は上肢に比較して下肢の筋肉量減少か著しいことが分かっています。

だから、立ったり、歩いたり出来なくなる人が多いのですね。

筋肉量減少は、もちろんエネルギーとたんぱく質の補充ですね。

あとはリハビリなどで身体活動度をあげることもケアプランに入れる必要があるでしょう。

私であれば、握力測定を追加してサルコペニア判定を行い、医師とリハビリスタッフを栄養の世界に巻き込みます。

モニタリング項目は、体重、下腿周囲長に加え、私であれば筋肉量と筋力は関連が深いので握力測定を追加します。

モニタリングこそが、栄養ケアの方向性が正しいのか否かを把握するための重要な行動です。

4)GLIM基準の病因基準ー週単位の食事摂取量減少

対応は、体重減少と同じです。

あらゆる選択肢を考慮して、少しでも食事摂取量を増加させることが、ミッションです。

ここは腕の見せ所ですし、食事摂取量を改善させることができれば、一気に対象者の方や他職種から信頼を得ることができるでしょう。

モニタリング項目は、もちろんエネルギー摂取量です。

エネルギー摂取量を数値化し、対象者(必要に応じて)や、他職種にフィードバックしましょう。

5)GLIM基準の病因基準ー消化吸収不良と炎症

これは、栄養管理では如何ともしがたいですね。

だからこそ、医師に方針を教えてもらうのです。

調べて考えてもわからないことは、勇気をもって医師に質問しましょう。

たとえば、、、

「先生、この熱は、がんに伴うものなのでしょうか?どのようにして炎症をケアしていくのか勉強のために教えてください!」

という感じです。

コミュニケーションこそが、チーム医療の根幹ですから。

炎症の話題は、以下のページをご参照ください。

まとめ

未来の診療報酬改訂において、GLIM基準は一般病棟や介護現場の栄養アセスメントに、かなり高い確率で、要件化または推奨化されることでしょう。

でも、もっと大切なのは、GLIM基準によって低栄養者を明らかにし、栄養管理の質をあげることです。

また、GLIM基準を用いた低栄養診断結果のデータ化によって、自施設の立ち位置を知り、客観的かつ学術的な要素を含めて栄養管理を行いましょう。

病院や施設を利用する対象者の半数以上は低栄養である可能性が高いです。

GLIM基準を用いて、個々の対象者の課題を抽出し、解決することで、必ず栄養管理の質向上につながることでしょう。

応援しています。

【2024年8月10日OPEN】GLIM基準の広場(よろづ相談:疑問、質問、悩みなどの課題解決、情報交換)をはじめました

当ブログを介して、多くの方が、GLIM基準について勉強されたり、情報を収集されていることがわかりました。

ニーズがあるかどうかはわかりませんが、当ブログでの新しい取り組みとして、GLIM基準やその他の業務について情報交換できるような場になればと

いう思いを込めた記事を作成しましたので、よかったらアクセスしてみてください↓

【応用編】GLIM基準の使い方:実際の栄養管理5つのポイント” に対して6件のコメントがあります。

  1. 佐々木悦子 より:

     おはようございます。とても、詳しく解説ありがとうございます。
     今回、だいぶ遅れてしまいましたが、4月の診療報酬改定の件で、栄養管理手順の見直しから、GⅬIM基準を使用するにあたって、全然と言ってわからない事ばかりでしたが、解説を読んで、幾分、解消されました。現在は、療養型病院に席を置いております、管理栄養士です。1つお聞きしたいのですが、入院患者のデータ化のエクセルの表の作り方がどういう項目が必要なのか、教えていただきたいと思います。現在は、新入院患者のSGAスクリーニングの栄養評価や基礎代謝量や活動係数、アルブミン値、などと項目で一覧を作成しております。今後は、MNA-SFとMUSTの項目をつくればよいのですね。お忙しいところ、よろしくお願いいたします。

    1. 新しい記事をいち早くお読みいただき、またコメントもありがとうございます。患者様のデータ項目の選択についてのご質問ですね。
      もし、私が療養病院の管理栄養士であれば、以下のような項目を収集すると思います
      ;患者ID、年齢、性別、診療科、疾患名、身長、体重、MUST(またはMNA-SF)各項目(該当があれば1, 該当がなければ0を入力)と合計点、GLIMの各項目(該当があれば1,、該当がなければ0を入力)と栄養状態判定結果です。
      加えて、退院時のGLIMの各項目(該当があれば1, 該当でなければ0を入力)と栄養状態判定結果も収集できるとよいと思います。血液検査はほとんど不要かと思いますが、予後指標としてアルブミン、炎症指標としてCRPくらいは参考程度に集めても良いかもしれません。
      このようなデータを集めることで、どの診療科にどの程度の低栄養者がいるのか、入退院のGLIMを比較して栄養状態は改善しているのかということを解析できると思います。
      一方、現在お使いになっているSGAですが、現在進行形の研究などでなければ、この機会にMUST(またはMNA-SF)  でスクリーニング、GLIMでアセスメントに変えると思います。
      以上、参考になれば幸いです。
      スタッフの皆様、ご友人の皆様にも、当ブログのご活用をおすすめしていただけますと幸いです。
      引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
      追伸:もし、お名前の表示が気になるようでしたら、「編集」から仮名への変更も可能です。

      1. 佐々木悦子 より:

         おはようございます。
         早速のご返答ありがとうございます。とても、参考になりました。今、気がかりなことが1つあるのですが、私の、知識不足なのか、MNA‐SFのふくらはぎの周囲長、31㎝未満0点はわかるのですが、31㎝以上は1点なのか、3点なのか、日本栄養士会の診療報酬改定の解説では、1点。どちらなの?と疑問があります。何度も申し訳ございません。もしお時間ございましたら教えていただきたいと思います。

        1. MNA-SFの下腿周囲長の点数に関するお尋ねですね。
          結論から申し上げますと、MNA-SFの下腿周囲長は「31cm以上で3点」です (Vellas B, J Nutr Health Aging 2006 / Rubenstein LZ, J. Geront 2001 / Kaiser MJ, J Nutr Health Aging 2009)。
          下腿周囲長に対応するBMIの最大点数が3点ですので、1点では計算が合わなくなります。
          一方、BMIは値によって0, 1, 2, 3点と4択であるのに対して、下腿周囲長は0 or 3点の2択ですので、以前より使いにくいといった意見があったように思います。
          また、MNA-SFの下腿周囲長は、入院中の日本人にとっては大きすぎる可能性もあります( Maeda K, et al. Ann Nutr Metab. 2017)
          いずれにしても、下腿周囲長はBMIを求めることができないときに使用するものですので、基本的にはBMIを使用したいところです。
          なお、ご質問の中にありました日栄の解説については、当該資料を確認していませんので言及は避けたいと思います。ご容赦ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です