【徹底解説】GLIM基準の使い方・4つの手順:スクリーニングは何を使う?

nutripreneurblog.comを運営しておりますアラフィフ管理栄養士のアラフィンです。

この度は、記事にアクセスをしていただきありがとうございます。

さて、令和6年診療報酬改定で、回復期リハビリテーション(回リハ)病棟入院料1について、入退院時の栄養状態の評価にGLIM基準を用いることが要件化されましたね。

また、回リハ病棟入院料2から5においては、 GLIM基準を用いることが望ましいと厚生労働省が通達しました。

近い将来において、GLIM基準の要件化は、回リハ病棟にとどまらず、一般病棟および福祉施設にも実装化が進められていくことが推測されます。

一般病棟や福祉施設で働く管理栄養士の方は、GLIM基準の使い方を勉強し、自施設への導入・実装を進めていく方法を検討していく必要があると思われます。

でも、いきなりGLIM基準を導入せよと言われても、どこから手をつけてよいかわかりませんよね。

そんなあなたへ。

この記事では、これからGLIM基準について勉強し、自施設に導入・実装を検討されている方を対象に、そのHow toについて徹底解説していきます。

ぜひ、最後までご覧ください。

プロフィール

なまえ:アラフィフ管理栄養士のアラフィン

職 歴:管理栄養士として病院で調理全般 → 病院で献立全般 → 病院で栄養管理全般 → 大学で研究・教育 → 現在、大学で研究・教育+副業(起業の練習)→2030年に起業を本格始動(未来)です。

学 位:博士

GLIM基準とは?:我が国の先行事例(エビデンス)

GLIM基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition criteria)とは、国際的な低栄養の診断基準です。

というのも、これまで低栄養の診断基準は、きちんとした定義はありませんでした。

そこで、欧州・米国・アジア・南米の4学会の代表者が一同に会して低栄養診断基準の策定を行った成果がGLIM基準です。

日本では、愛知医科大学が入院患者を対象に、GLIM基準によって判定された栄養状態別(低栄養なし、中等度低栄養、高度低栄養)の予後を検証しています。

主な結果として、GLIM基準で判定された栄養状態が悪いほど、年齢や罹患している疾患とは独立して、3年後の死亡率が高くなることが報告されています(Mori N, et al. Clinical Nutrition 2023;42:166‒72)。

この論文は、回リハ病棟だけでなく、一般病棟においても(おそらく社会福祉施設においても)、GLIMを実装することが有用であることを示してます。

※英語論文がスラスラ読めたらいいなあ、と一瞬でも思った方はコチラの記事をご覧ください。

GLIM基準の導入・実装するためのステップ1:栄養スクリーニング方法を見直す

GLIM基準は低栄養の可能性がある対象者に使用されるものです。

つまり、GLIM基準を使用する対象者とは、その前段階の栄養スクリーニング(リスクスクリーニング)でひっかかる低栄養または低栄養疑いの患者のみです。

この最初のリスクスクリーニングにおいて、どの栄養スクリーニングツールを用いるかについては悩みどころですね。

たった1つの厳密なルールがあります。

それは、きちんと妥当性が確認された栄養スクリーニングツールを使用するということです。

ということは、GLIM基準を導入・実装する前に、栄養スクリーニングを以下のような、妥当性が確認された方法に見直す必要があるということですね。

妥当性が確認された栄養スクリーニングツールとは、MNA®-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)、NRS2002(Nutrition Risk Screening)、MST(Malnutrition Screening Tool)、PG-SGA(Patient Generated-SGA)などを指します。

GLIM基準導入・実装:おすすめの栄養スクリーニング(リスクスクリーニング)

私のおすすめは、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)または/かつ MNA®-SFです(私見です)。

MUSTの良いところは、使う項目がたったの3項目(BMI、過去の体重減少、急性疾患または栄養摂取状況)という簡便性です。

それから、年齢や性別、疾患などに関わらず、どのような対象者にも使用できるという点が、導入・実装しやすいと思います。

また、MNA®-SFの良いところは、日本での普及率、認知率が高く、日本人を対象にしたエビデンスも多く蓄積されている点です。

MUSTよりは、やや項目が多くなりますが、ほとんどの項目が問診で判定できますので、時間はほとんどかかりません。

ただし、65歳以上の高齢者の栄養スクリーニングツールですので、65歳未満の方には適応しずらいという弱点があります。

(※65歳未満の対象者にも有用であるという論文は存在します。)

対象者が、高齢者主体である場合は MNA®-SFを用いるべきでしょう。

個人的には、これら2つの合わせ技がよいのではないかと思います。

つまり、65歳未満にはMUST、65歳以上にはMNA®-SFを使用してスクリーニングをするということです(あくまでも個人的意見です)。

一方、SGAをベースにしたスクリーニングを行っている施設も多いと思いますが、GLIMのリスクスクリーニングにはすすめられていません。

それでは、まずSGAがなぜダメなのかを解説し、そのあとにMUSTとMNA-SFの使い方を見ていきましょう。

SGAや改変ツールではダメなのか?

結論からいいますと、ダメです。

スクリーニングとは、”ふるいにかける”という意味で、「誰もが、簡単に、即座に」実施できるものである必要があります。

SGA(Subjective Global Assessment)は、その名の通り、アセスメントが主体となったスクリーニングツール(スクリーニング・アセスメント一体型)です。

また、正しい判定を出すためには一定の習熟度が必要となり、「誰もが、簡単に、即座に」実施できないのです。

だから、SGAはGLIM基準のリスクスクリーニングには推奨されていません。

今から20年以上前に、NST(Nutrition support team)が各病院で発足し始めたことを契機に、入院時の栄養スクリーニングを行うことが実装化されていきました。

当初は、とにかく栄養スクリーニングを実装することにフォーカスされていましたので、SGAをベースにBMI、血液検査、嚥下状態などの栄養アセスメント指標を、ある意味 “勝手に” 組み入れ、より使いやすいようにした改変SGAなどを使用してきた経緯があると思われます。

しかし、今回のGLIM基準のリスクスクリーニングは、”妥当性が担保されたスクリーニングツール” を使う事がたった1つのルールになっています。

栄養スクリーニングが各病院・施設に実装されて約20年以上が経過します。

いまだ、改変した栄養スクリーニングツールを使用している場合は、この機会に妥当性が担保されたスクリーニングツールに変更することを検討すべきでしょう。

①MUSTの使い方:栄養指標のカットオフ値と判定方法

まず、対象者のそれぞれの指標(1)~(3)を確認して、(4)MUSTの点数を合計します。

(1)BMI

>20 = 0点 / 18.5~20 = 1点 / <18.5 = 2点

(2)過去3~6か月の体重減少率

<5% = 0点 / 5~10% =1点 / >10% =2点

(3)急性疾患 / 栄養摂取状況

経口摂取が5日以上できていない、 かつ5日以上の栄養摂取を障害する恐れのある急性疾患(消化管手術・化学療法・放射線療法前後など)の存在

なし = 0点 / あり = 2点

それぞれの点数を合計できましたか?

(4)合計点による判定結果

0点:低リスク / 1点:中リスク / 2点以上:高リスク

合計点が、0点であれば「現時点で低栄養状態なし/栄養良好」としてスクリーニングを終了します。

一方、1点以上(中リスク)であれば、GLIM基準で栄養アセスメントを行っていきます。

MUSTの弱点は入院時に身長や体重を測定できないなど、BMIを計算できない場合に判定ができないケースがでてくるということです。

BMI以外で1点以上になる場合は、GLIM基準の栄養アセスメントで低栄養の有無を判定できますが、BMI以外の項目に問題がない場合にどうするのかを想定し、事前に約束事を取り決めておく必要があるでしょう。

② MNA®-SFの使い方:栄養指標のカットオフ値と判定方法

まず、対象者のそれぞれの指標(A)~(F)を確認して、MNA®-SFの点数を合計します。

(C)~(E)のように高齢者でよくみられる症状に注目しているのが特徴です。

ちょっとわかりにくいのが、「(D)の精神的ストレス」です。

これは、対象者本人が何らかの事情(例えばご家族や親しい間柄の方に不幸があったなど)で精神的ストレス(メンタル面が落ち込んでいる)を抱えているかどうか、などということです。

聞き取り方には、コツがいりそうですね。

それから、(F-2)ふくらはぎの周囲長は、(F-1)のBMIを何らかの事情で計算できないときに使用します。

つまり、(F-1)と(F-2)には、どちらかにだけ点数が入るということですね。

さて、実際の項目をみていきましょう。

(A)過去3か月で食欲不振、消化器系の問題、そしゃく・嚥下困難などで食事量が減少しましたか?

0点:著しい食事量の減少 / 1点:中等度の食事量の減少 / 2点:食事量の減少なし

(B)過去3か月で体重の減少がありましたか?

0点:3 kg以上の減少 / 1点:わからない / 2点:1~3 kgの減少 / 3点:体重減少なし

(C)自力で歩けますか

0点:寝たきりまたは車椅子を常時使用

1点:ベッドや車椅子を離れられるが、歩いて外出できない

2点:自由に歩いて外出できる

(D)過去3か月間で精神的ストレスや急性疾患を経験しましたか?

0点:はい / 1点:いいえ

(E)神経・精神的問題の有無

0点:強度認知症またはうつ状態 / 1点:中程度の認知症 / 0点:精神的問題なし

(F-1)BMI(kg/m2)

0点:BMIが19未満 / 1点:BMIが19以上、21未満 / 2点:BMIが21以上、23未満 / 3点:BMIが23以上

(F-2)ふくらはぎの周囲長(cm)

0点:31 cm未満 / 1点:31cm以上

※MUSTと同様、BMIが項目に入っていますが、身長や体重を測定できない場合には、下腿周囲長で代用するとよいでしょう。

合計点による判定結果

12‐14点 栄養状態良好

8‐11点 低栄養のおそれあり(At risk)

7点未満 低栄養

合計点が、12点以上であれば「現時点で低栄養状態なし/栄養良好」としてスクリーニングを終了します。

一方、11点以下(低栄養または低栄養のおそれあり)であれば、GLIM基準で栄養アセスメントを行っていきます。

MNA-SFの弱点は、問診項目が多いため、対象者または家族からの情報を収集できないケースでは、判定が難しくなります。

問診が出来ない場合を想定し、事前に約束事を取り決めておく必要があるでしょう。

GLIM基準の導入・実装するためのステップ2:3つの表現型基準と2つの病因基準の判定方法を理解する

GLIM基準による低栄養の診断の流れは、前述のとおりリスクスクリーニングに始まり、そこで抽出された低栄養状態の可能性がある患者に対して、栄養アセスメント、低栄養の診断、重症度判定および病因別分類を行います。

一方、リスクスクリーニングで、栄養状態に問題がないと判定された場合は、GLIM基準による低栄養の判定を行う必要はありません。

GLIM基準はグローバルに用いることを想定していることから、この指標のうちBMIおよび筋肉量は人種毎に異なるカットオフ値が提案されています。

つまり、BMIの基準などにおいて、私たちアジア人と他の地域の人のカットオフ値が異なるということです。

栄養アセスメントは、3つの表現型基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と2つの病因基準(食事摂取量の減少/消化吸収能低下、疾病負荷/炎症)を用います。

3つの表現型基準のうち1つ以上、かつ2つの病因基準のうち1つ以上に該当がある場合、低栄養と診断されます。

例えば、3つの表現型基準のうち低BMIに該当があり、と2つの病因基準のうち食事摂取量の減少に該当がある場合、低栄養と診断されるというわけです。

一方、極端な例えになりますが、3つの表現型基準のうち、意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少の3つに該当があっても、2つの病因基準にまったく該当がない場合は低栄養と診断されないということです。

GLIM基準の導入・実装するためのステップ3:5つの栄養アセスメント指標のカットオフ値を定め共有する

以下に示すような表現型および病因の基準の計5つのカットオフ値を正しく認識し、低栄養診断の基準としてルール化することが必要です。

①3つの表現型基準のカットオフ値

(1)意図しない体重減少:過去6か月以内で5%以上の体重減少、もしくは過去6か月間以上で10%以上の体重減少

(2)低BMI(アジア人のカットオフ値):70歳未満の場合はBMI18.5未満、70歳以上の場合はBMI20未満

(3)筋肉量減少:二重エックス線吸収法(DXA)(男性: <7 kg/m2,女性: <5.4 kg/m2)または生体電気インピーダンス法 (BIA)(男性: <7 kg/m2,女性: <5.7 kg/m2

※DXAを使用できる施設はほとんどないと思いますので、現実的にはBIA法のカットオフ値がメインに用いられると思います。

BIAを測定できる機器がない場合は、以下のように下腿周囲長でも代替可能と報告されています。

急性期病棟:男性30 cm未満、女性29 cm未満(Mori N, Clinical Nutr, 2023)

回復期病棟:男性33 cm未満、女性32 cm未満(Nishioka S, Nutiriton 2021)

②2つの病因基準のカットオフ値

(1)食事摂取量の減少:エネルギー必要量の50%以下の摂取量が1週間以上持続、何らかのエネルギー摂取量減少が2週間以上持続、吸収不良に悪影響を及ぼす慢性的な消化管の状態、のいずれか

(2)炎症:急性疾患や外傷による炎症(急性感染症、手術、外傷、骨折、熱傷など)、慢性疾患による炎症(癌、慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性肝不全といった慢性臓器不全や慢性感染症や関節リウマチなどの自己免疫疾患)のいずれか

GLIM基準の導入・実装するためのステップ4:低栄養の重症度分類のカットオフ値を定め共有する

低栄養の診断が確定した場合、次に低栄養の程度を判定します。

つまり、低栄養の程度が中等度なのかもしくは重度なのかということです。

低栄養状態が重症であるほど予後は悪くなることが報告されています。

重症度分類は以下のとおり、表現型基準のカットオフ値を用い、どれか1つでも該当があった場合は重度低栄養と判定します。

(1)意図しない体重減少:過去6か月以内で10%以上、もしくは過去6か月間以上で20%以上

(2)低BMI(日本人のカットオフ値):70歳未満の場合はBMI17.0未満、70歳以上の場合はBMI17.8未満(Maeda K, Clin Nutr, 2019)

(3)筋肉量減少:高度な減少(この記事を書いている時点ではカットオフ値は定められていませんので、個別判断になると思います)

GLIM基準を用いた低栄養の病因別4分類

最後に、低栄養の主な原因を、次の病因別4分類で判定します。

これは、栄養管理のゴールを「栄養状態改善、栄養状態維持、栄養状態悪化の軽減」のいずれに設定するのか、また栄養ケアプランと栄養介入をどのように設定するのかを検討するために有用です。

(1)慢性疾患で炎症を伴う低栄養

(2)急性疾患あるいは外傷による高度の炎症を伴う低栄養

(3)炎症はわずか,あるいは認めない慢性疾患による低栄養

(4)炎症はなく飢餓による低栄養(社会経済的または環境的要因に関連する食糧不足に起因)

GLIM基準の今後の課題と将来像

将来、国際標準化されたGLIM基準による栄養状態の診断によって、地域間および長期間の有病率の比較が蓄積・検証されることが想定されています。

日本人における重症度分類の筋肉量のカットオフ値を検証することも重要な課題です。

今後のGLIM基準の持つ課題として、さらに多くの栄養関連学会や協会の承認および協力の確保と普及を行い、妥当性や有用性についてさらに詳細な検証が必要とされています。

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